日本情報考古学会趣意書

 21世紀の足音が聞こえるようになった昨今、日本国内の年間発掘調査数は1万余件を数えている。それに従い、調査報告書の刊行物も膨大な数にのぼり、いよいよ情報の洪水の中に身をゆだねるようになった。振り返ってみれば、戦後50年がたち、日本の考古学にも飛躍的な発展がみられた。無から出発した旧石器時代研究、精緻な土器編年を築き上げた縄文文化研究、大陸との交流を明らかにしつつある弥生文化研究、巨大な前方後円墳等に関する古墳文化の研究、文献史料と深い関わりをもつ歴史考古の研究などは、他の関連諸科学にも大きな刺激を与えてきた。最近の研究者は、諸外国に出かけ、日本流の精密な発掘調査を行い、世界各地での先史時代研究の発展に寄与するようになった。明治時代から始まる考古学研究は、終戦までをその黎明期とみなせば、戦後の半世紀の間に、発展期と繁栄期を迎え、現在ではついに爛熟期を迎えていると言えないだろうか。
 
 全国津々浦々で発掘調査が行われている現在、遺物や遺構の発見数にはおびただしいものがある。ひとつの遺跡の発掘で、数10万点の遺物が、数千の整理箱に保管されるのは、別に珍しいことではなくなった。情報の洪水の中で、多くの研究者が喘ぎだしたというのも現況の一側面ではないだろうか。そこで、情報処理の問題がクローズアップされ、コンピュータが使用されるようになったのである。データを数値化し、それを保管し、時には呼び出し、分析することは、コンピュータの媒介があって始めて可能となった。

 われわれは、これまで約19年にわたり、「考古学におけるパーソナルコンピュータ利用の現状」と「考古学における計量分析」をメインテーマに研究会を進めてきた。発掘調査の最前線で活躍する若手の研究者を中心に、研究論文を発表してきたが、考古学研究以外にもコンピュータサイエンス、統計学、鉱物学、植物学、動物学、古生物学、形質人類学、民俗学、地理学等の関連諸科学からの寄与が大きかった。しかし、われわれの努力不足もあり、これらの研究会の趣旨が十分に行き届かず、興味を持つ研究者が参加できずにいた。この点を反省して、今回われわれは、今までの研究会を発展的に解消し、新たに学会を設立したいと希望した。
 
 本学会は、考古学を中心に、関連諸科学を専攻する方々に広く開かれた学会である。遺跡・遺構・遺物の計測法、それらのデータを整理し分析したりする方法は勿論であるが、もっと広く、考古学に関する情報全般を取り扱う分野の研究者なら、誰でも入会できる。考古学とそれに係わる関連諸科学の同好の方々に集まっていただき、互いに啓発し合い、学問の発展に寄与することができる学会である。この趣旨を理解し、こぞって本学会の設立に参加されることを願う次第である。
  
                                     平成7年3月26日  発起人一同